自工会/部工会サイバーセキュリティガイドラインとは?制定背景から活用まで解説
2024年4月29日100年に一度の大変革期を迎えている自動車業界において、技術の進歩は目まぐるしい状況が続いています。 ACC(オート・クルーズ・コントロール)やAHB(オート・ハイビーム・システム)/AHS(アダプティブ・ハイビーム・システム)など、あくまで運転に対する利便性や安全性の向上を目的とした車内クローズドの機能がどの車両にも標準的に搭載されたかと思えば、現在では、スマホを使用した車両の開錠/施錠、それ以外にもリモートコントロールと呼ばれる遠隔で車両を動かす機能まで当たり前になろうとしてきています。 しかし、技術が進歩する一方で、悪い側面も出てきており、それは技術の穴をついたサイバー攻撃です。昨今ニュースなどのメディアで取り上げられている生産停止や顧客情報の流出など、サイバー攻撃によるインシデントが日々発生していることから、サイバー攻撃は車両の影響に留まらず、サプライチェーンを含む自動車業界を巻き込む事態となっていると言えます。これからの自動車業界は、技術の進歩に加え、サイバー攻撃にどう対応し、いかにしてリスクを減らしていくかが求められています。そこで制定されたのが、自工会/部工会・サイバーセキュリティガイドラインです。今回の記事では、自工会/部工会サイバーセキュリティガイドラインに関する制定の背景、ガイドラインの目的、対象になる産業や企業について説明します。 ガイドライン制定の背景と目的 サイバー攻撃のリスクを挙げると ・セキュリティ対策を強化中の関係企業や取引先等のネットワークへの不正侵入 ・企業間ネットワークを経由した攻撃 ・標的企業が利用するソフトウェアや製品への不正なプログラムの埋め込み等のサプライチェーンを狙ったサイバー攻撃 など、数多くあります。自動車メーカーやサプライチェーンを構成する各社に求められる自動車産業固有のサイバーセキュリティリスクを考慮した、向こう3年の対策フレームワークや業界共通の自己評価基準を明示することで、自動車業界全体のサイバーセキュリティ対策のレベルアップや対策レベルの効率的な点検を推進することを目的にガイドラインが制定されました。 ガイドラインの対象 ガイドラインの対象は下記と定義されています。 ・自動車産業に関係する全ての会社(特にセキュリティ業務に関与している) ー CISO (最高情報セキュリティ責任者) ー リスク管理部門 ー 監査部門 ー セキュリティ対応部門 ー 情報システムの開発/運用部門 ー データマネジメント部門 […]
自動車の発展、E/Eアーキテクチャの変化について
2024年3月26日自動車電装とはE/E(Electrical&Electronic)、自動車の電気及び電子装備のことを示します。各種モーターやセンサー、制御装置、操作スイッチ、ブラックボックス、カメラを含む電気系部品や装備がこれに該当します。SDVの本格化により、自動車電装分野は業界内でもこれから伸びる産業として注目されています。そしてE/Eアーキテクチャとは、自動車内部の様々な装置を管理するために搭載されている各種制御機やケーブルなどの設計構造として定義されています。つまり、車両に搭載されているE/E装置をつなぐシステムのことを意味します。今回は、E/Eアーキテクチャの発展プロセスについて取り上げながら、次世代E/Eアーキテクチャが今後どのように変化していくかについて解説します。 分散型アーキテクチャ(Distributed Architecture)とは 昔の車は、ただ移動するための手段に過ぎませんでした。車両に搭載されるコンピューティング要素と言っても、モーターの制御を含む車両動作関連のECU(Electronic Control Unit)程度であり、この時の自動車は動力機関や安全性などによって車両の性能が決定されました。当時は、車両に搭載されるECUの数が少なかったため、一つの機能を提供する低い性能のECUを複数搭載することで、車両製造のコストを下げるとともに、エンジン制御、ブレーキ制御など、機能ごとに最適化されたECUを配備することができました。 しかし、自動車の電子化に伴い、自動車の快適性や利便性を向上させるための様々な機能が搭載されるようになりました。例えば、運転者に情報や娯楽を提供するインフォテイメント機能や温熱シートなどが開発され、これらの機能を実行するECUが必要となり、自動車メーカーは必要とされるECUを追加し続けることで車両アーキテクチャを構成していきました。 出典:ECUの平均搭載数の増加推移 上のグラフを見ると、自動車の機能が複雑になるにつれて車両に搭載されるECUの数がますます増えているのがわかります。実際、高級車の場合には100個以上のECUが搭載されるともいわれています。このように複数のECUを用途に応じて車内各所に配置したアーキテクチャを「分散型アーキテクチャ(Distributed Architecture)」といいます。 図1.分散型アーキテクチャ 出展:https://www.hyundai-kefico.com/en/future-tech/modular-architecture/content.do 分散型アーキテクチャでは図1のように、車両全体において、複数のECUが配置されている構成となっているのがわかります。 ECUの配置における基準は特になく、機能が追加されるたびにその機能を提供するECUを搭載していくため、このような複雑な構成を見せています。 分散型アーキテクチャの問題点としては、必要に応じてECUを搭載していくため、重複した機能を持つECUも存在すれば、不要な機能がそのまま残っている場合もあるということが挙げられます。こうなると、特定機能をアップデートする際には、当該機能と関連しているECUがどこに配置されているのかを見つけ出し、機能をいちいち比較しなければなりません。このアーキテクチャは車両機能の拡張性に限界があり、用途も限定的ということから、後述するドメイン型やゾーン型アーキテクチャへの移行が求められるようになりました。 ドメイン型アーキテクチャ(Domain Architecture)とは 従来の分散型アーキテクチャの課題を解決するために新しく提示されたのが「ドメイン型アーキテクチャ(Domain Architecture)」です。 図2.ドメイン型アーキテクチャ 出典:https://www.hyundai-kefico.com/en/future-tech/modular-architecture/content.do ドメイン型アーキテクチャでは、自動車の機能に基づいて、複数の関連機能が一つのドメインコントロールに統合されます。一般的にパワートレイン系、ボディ系、シャシ系、インフォテイメント系といった複数の機能単位(ドメイン)で分類されます。これらのドメインの制御を1つのユニットで統合することで、異なるサブシステム間の通信とデータ交換を最適化する、ドメイン制御ユニット(DCU)による集中型アーキテクチャが可能になります。ドメイン型アーキテクチャは、分散型アーキテクチャと比べ機能アップデートが容易になることから、現在多くの車両で採用されています。しかし、自動運転の到来が加速している現在、ドメインにフォーカスした従来のアーキテクチャは限界を迎えつつあります。その理由としては、2つほどが挙げられます。 1つ目に、自動運転技術の発展に伴い、車両に搭載すべき装置が爆発的に増加していることです。自動運転機能を実装するための装置は増える一方で、その装置が機能単位で縛られることによって物理的な限界が生じるようになりました。例えば、特定のドメインを管理するDCUが車両後部に配置されているとしましょう。そして、このドメインに属する装置が車両の前部に搭載されているとしたら、機能単位で分類するドメイン型アーキテクチャでは、どうしても前部の装置と後部のDCUをつなぐためのケーブルが必要になります。このようなケースが多くなると、車両のケーブルの重量と長さが耐えられないほど増えてしまいます。実際、車両ケーブルの重量および長さは車両の単価、燃費、重量に影響を与えるため、自動車設計時に非常に重要な要素となります。 2つ目に、自動運転を可能にするためには、自動車に搭載されている全ての装置間の情報共有が必須であるということです。ドメイン型アーキテクチャでは、車両装置を機能に基づいて分類しているため、機能のアップデートには最適であるものの、他のドメインに属している装置との情報共有に問題が発生する恐れがあります。 […]ECU開発の効率を高める「HILS」とは?
2024年3月13日自動運転車、CASEを実現するための技術が高度化するにつれて、車両に搭載されるECUもさらに高度化しています。 それに伴い、ソフトウェアも複雑化しており、ソフトウェアによるエラーやバグも多く発生している状況です。そのため、高度化された技術水準に合わせて徹底した検証が必要になります。 しかし、複雑なソフトウェアが搭載されたECUを実際の駆動環境と同じ環境を構築してテストすることは多くのリソースが必要になるため、簡単にできることではありません。この課題を解決するために、仮想環境でテストを行う「HILS」への関心が高まっています。今回は、HILSとは何か、どのように活用できるのかについて詳しく解説します。 HILSとは? HILS(Hardware in the Loop Simulation)とは、開発された製品の機能を検証するテスト方法であり、製品の駆動環境と同じ条件を仮想環境で構築し、シミュレーションを通じて製品がまともに機能するかどうかを検証する方法です。複雑に構成されたソフトウェアやECUをテストするために、実際の車両レベルのテスト環境を構成しなくても安全性を検証できる効率的な方法です。電気装置・機械装置の代わりに仮想環境にモデル化した制御対象(プラントモデル)とテスト対象(ECU)を連結させ、製品が実際の環境と同じ条件で機能するかどうかをシミュレーションで検証できます。 HILS導入の背景 一つの機能を提供するためには多くのECUが連携して作動する必要があります。例えば、車両の自動温度調節機能を提供するためには、温度・エアコン・窓・ヒーターなどを担当するECUが連携する必要があります。これより複雑な機能を提供するためには、たくさんのECUの連携が必要になります。したがって、車両に何らかの機能を追加する際には、その機能に直接または間接的に関連するECUのソフトウェアテストと検証が必要です。ソフトウェアの欠陥は製品開発段階で検証することが難しく、それで発生する問題も予測できない場合も多いため、徹底的なテストがさらに重要なことになります。また、新たな機能を車両でテストすることはとても危険なことですので、試験用車両や模型車両を製作してテストすることが一般的でした。しかし、組込みソフトウェアの増加や搭載されるECUの数が急激に増加したため、テスト環境の構築に使われるリソースが増えてしまいました。 これらの課題(ソフトウェア検証の難しさ、リソースの最適化、ECU開発の効率化)を解決するためにHILSテストが活用されるようになりました。 HILSのメリット HILSの重要な目的は開発コストを抑え、開発期間を短縮することです。テスト車両を製作しなくても、仮想環境に作成しておいた制御対象を用いてECUのソフトウェアテストができるため、資金と時間を要するテスト車両の製作数を減らし、テストベンチで過ごす時間を大幅に削減できます。これは自動車のテストである断線、センサーの故障、車両衝突などの危険な試験を行う場合にもメリットとなります。また、制御アルゴリズムの開発において、制御対象となる実際の部品が存在しないなどの場合にも効果的です。 時間やスペースの制約がなく、必要なときにいつでもテストを行うことができるのもメリットです。 HILSテストの環境について HILSは、実際のECUを組み合わせてプロトタイプを製作する代わりに、シミュレーションを通じてテストを行います。このため、HILSテスト環境は1)Test Input Generator、2)ターゲットECU、3)HILSで構成されます。Test Input Generatorはテストのための入力値を生成して入力する役割を担い、これにFuzzerなどの入力器が含まれます。ターゲットECUは機能をテストしたい対象ECUを意味します。HILSは実際の車両の環境を数学的にモデル化したもので、実機のアクチュエータを接続してテストすることもできます。 上の図は、AutocryptのHILSテスト環境です。HILSに対象ECUを接続した状態で、Fuzzerを利用してテスト入力値を注入すると、HILSを通じて出力値を受け取ることでターゲットECUのテスト過程を確認できます。このように対象ECUの機能に関連するすべてのECUを実際に構成しなくてもHILS環境でシミュレーションできます。 […]SDV(ソフトウェア定義型自動車)への進化による自動車のリコールの変化
2024年2月21日近年、自動車のリコールが世界的規模に拡大されています。2023年12月、アメリカでテスラ(※1)が高度運転支援システムの「オートパイロット」の機能に潜在的リスクが発見されたとして、過去最多の200万台の大規模リコールを発表しました。また2023年2月、トヨタ自動車(※2)は衝突被害軽減ブレーキが作動しない恐れがあるとして、約19万台のリコールを国土交通省に報告しました。これらのリコールの特徴は、ソフトウェアの不具合で発生したリコールという点です。 自動車の機能をソフトウェアが左右するといっても過言ではない時代になっています。自動車が走るコンピュータに変化するにつれて、リコールの傾向も変化しています。ソフトウェア更新で対応可能になり、売店に入庫したりディーラーに連絡することなく、ユーザが自分で対応可能になっていることから、これまでのハードウェアの不具合による自動車のリコールとは明らかに違います。今回は、自動車リコール制度というものを説明しながら、SDV技術の発展で発生するソフトウェアリコールについて詳しく掘り下げていきたいと思います。 ※1出典: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231214/k10014287821000.html ※2出典: https://toyota.jp/recall/2023/0216_2.html 自動車のリコールの変化 自動車のリコール制度は自動車の設計・製作上の不具合による事故や、故障、公害の未然防止を図るため、自動車メーカー等が不具合のあった型式の自動車に対して改善措置を行う制度です。(※3) ※3出典:政府広報オンライン:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201202/1.html 自動車安全基準の不具合が見つかったら自動車メーカが自主的にリコールを行う場合もあれば、国土交通省(アメリカの場合は米道路交通安全局(NHTSA))のような交通安全をつかさどる機関からの命令によるリコールが実施される場合もあります。もともとは、ハードウェアの問題によるリコールが多かったです。矢野経済研究所が調査したレポート(※4)によると、2020年の世界のリコールの比率はハードウェアのリコールが60%で、ソフトウェアのリコールが40%程度でした。それが、ソフトウェア中心のSDVへ進むにつれ、2025年にはソフトウェアのリコールが60~70%まで拡大し、ハードウェアを上回ることが予測されています。 実際、テスラのリコールの90%以上はソフトウェアのアップデートで簡単に処理できるという調査結果もあります。 ※4出典: 「2020年版 車載用ソフトウェア市場分析 VOL.1 分析編 ~CASEで変わるクルマの開発・製造とソフトウェア市場2030年予測~」 ソフトウェアリコールの流れ ソフトウェアのリコールは、OTA(Over the Air)によるソフトウェア更新と同様で、無線ネットワークによるソフトウェアやファームウェアアップデートでリコールを実施できます。OTAによるソフトウェア更新を可能にするためには、自動車に4Gや5G、またはWi-Fiのような通信方式に対応するTCU(テレマティクスコントロールユニット)や、走行データや車両データを保存するメモリーが組み込まなければなりません。ソフトウェアリコールの際、自動車メーカーはクラウド基盤サーバーからソフトウェアパッチを車両に配布し、車両はそのパッチを自動的にダウンロードおよびインストールを行います。そしてパッチが正常にインストールされると、車両はOEMのバックエンドに更新状況を報告し、ソフトウェアリコールの一連の作業は終了になります。 ソフトウェアリコールのメリット OTA技術によるソフトウェア更新は自動車メーカーと車両の所有者の両方に効率性と便利さをもたらしています。ソフトウェア更新で車載システムのエラーが簡単に修正できるため、自動車メーカーはリコール作業を担当していた自動車ディーラーにおけるメンテナンスと人件費の削減ができ、車両の所有者は販売店やディーラーに連絡することなく自らリコール対応できるので費用や時間を軽減できます。 解決すべきソフトウェアリコールの課題 […]