自動車を巡る国際法規と標準、UN-R155とISO/SAE 21434の関係を解説
2023年11月7日近年の自動車産業において、UN-R155とISO/SAE 21434の理解は欠かすことはできません。しかしこれらの重要性を認識していても、UN-R155とISO/SAE 21434の違いや関係を明確には説明ができない、という場合が多いのではないでしょうか。本記事ではUN-R155とISO/SAE 21434の関係とISO/SAE 21434に従った自動車開発について説明していきます。 WP29の登場とUN-R155について UN-R155はWP29が定めた法的規制となるため、UN-R155とWP29、それぞれの用語についての理解は欠かせません。 まずWP29(World Forum for the harmonization of vehicle regulations)は、日本語では自動車基準世界調和フォーラムと呼ばれている組織です。国際連合欧州経済委員会(UNECE)の下部組織であり、自動車の安全基準などを国際的に調和させる役割を担っています。WP29の主な活動としては「1958年協定」と「1998年協定」がありますが、日本は貿易などで国際化する必要性から、それぞれの協定に1998年から加入しています。次にUN-R155は自動車のサイバーセキュリティについての要求事項が記載されている、WP29が定めた法的基準となります。CSMSだけでなく、適切な開発体制、プロセスで製品開発が行われたことが確認できるようなドキュメントの必要性についても言及されています。 ISO/SAE 21434について ではISO/SAE 21434とはどのような国際標準規格なのでしょうか。ISO/SAE 21434では主にはCSMS構築など、自動車のサイバーセキュリティに関連する要求事項が明記されています。代表的なものとしては以下のような内容が明記されています。 リスク管理手法:リスク管理を行うために必要な手法が定義されています。 開発プロセス:開発のみならず企画から必要なサイバーセキュリティ活動の要件が定義されています。 生産、運用、廃棄:製品の生産から運用、そして廃棄までに必要なサイバーセキュリティ活動の要件が定義されています。 サイバーセキュリティ管理:ライフサイクルに関するサイバーセキュリティ管理の要件、組織全体のルールなどが定義されています。 […]
SUMS(Software Update Management System)とは?その概要と重要性について解説
2023年10月18日自動車のサイバーセキュリティに関するソフトウェアは、開発の段階だけでなく、その後安全に更新していくことも重要な課題となります。では自動車のサイバーセキュリティとしてはどのような基準に沿ってソフトウェアの更新を考える必要があるのでしょうか。本記事ではSUMSの重要性について紹介していきます。 SUMS(Software Update Management System)とは何か? SUMS(Software Update Management System)とは、World Forum for the harmonization of vehicle regulations(WP.29)にて策定されたUN-R156に含まれる国際的な法規となります。SUMSでは自動車のソフトウェア更新をセキュアに実施するための要件が仕様として提示されています。内容としてはソフトウェアの更新が失敗した際の車両の安全性や、法規に関連した文書の管理、エビデンスの作成など様々です。スマートフォンやパソコンではソフトウェアやシステムの更新が失敗した場合、そのことが影響してデバイスそのものが動作しなくなる場合があります。同じことが自動車の車載ソフトウェアで起きた場合、大きな事故につながってしまうリスクがあります。このため自動車ではスマートフォンやパソコン以上にソフトウェアの更新が失敗した場合の安全を確保することは重要です。ソフトウェア更新は大まかにプログラムの入手(ダウンロード)、展開、インストールのどこで失敗しているのかによって、車両そのものに与える影響が異なります。単純にプログラムの入手の問題であれば車両への影響はそこまで大きくはないことが予想できます。しかしインストールの処理の途中で起きた問題なら、車両などシステムへの動作も懸念しなければなりません。トラブルシューティングも複雑になりがちです。このためソフトウェアの更新についてはある程度どこでどのような失敗があれば、どのような影響があるのかを評価し、安全性を確保することが必要となります。このような安全な更新のプロセス、エビデンスを残すことも求められているのです。 ソフトウェア更新が安全に行われないことで起きる問題 ではSUMSで要求されているような事項を満たすことができず、ソフトウェアが安全に更新されなければどのような問題が起きるのでしょうか。このことを理解するためにはアップデートシステムへの攻撃にはどのようなものがあるのかを知る必要があります。それは通信やソフトウェアの脆弱性をつく攻撃や、悪意のあるアップデートのインストールなどです。このような攻撃が成功したら、遠隔操作によるロック解除や個人情報の流出など、ビジネスインパクトが大きな出来事に結びついてしまう可能性があります。通常ソフトウェアのバージョンアップ/更新では、機能の追加/更新だけでなく、発見された脆弱性や既知となった問題への修正が含まれます。仮に既知の問題や脆弱性の対策ができなければ、そういった状態は攻撃者にとって恰好の的となります。 次に近年の車載ソフトウェアには、オープンソースソフトウェア(OSS)が利用されていることが少なくありません。オープンソースソフトウェアは無償で利用できるため、コストを抑えながら開発効率を高めるメリットはあります。しかしソースコードが公開された状態であるため、攻撃コードが開発されて実際に攻撃されてしまうリスクがあります。そしてオープンソースソフトウェア自体の脆弱性が公開されることもあるため、脆弱性情報の収集と影響評価を正しく行わなければ、ソフトウェアの安全性を脅かす要因にもなりかねません。 またソフトウェアを正常に更新することができず、追加機能をユーザに提供できなければ、品質低下や機会損失につながるリスクがあります。このためSUMSに従いソフトウェアを安全に更新するための体制を整えることは、自動車メーカーや関連する企業にとっても重要度が高いテーマだといえるでしょう。 SUMSで要求されている内容 では次にSUMS(Software Update […]アウトクリプト、「ジャパンモビリティショー2023」に出展
2023年10月6日この度、アウトクリプト株式会社は、2023年10月26日(木)から11月5日(日)まで東京ビッグサイトで開催される「ジャパンモビリティショー2023(JAPAN MOBILITY SHOW)」の特別企画展示「Startup Future Factory」に出展します。 アウトクリプトは、10月31日(火)、11月1日(水)両日にかけて、防災をテーマにした特設ブースで、WP29 UN‐R155及びISO/SAE21434に準拠したCSMS(サイバーセキュリティ管理システム)の確立及び運用戦略を提案させていただきます。また、車載ソフトウェアのOSS分析ツール「Autocrypt Security Analyzer」、車載専用のファジングテスティングツール「AutoCrypt Security Fuzzer」、車載サイバーセキュリティソリューション「AutoCrypt IVS」まで、自動車開発プロセスにおける問題の早期発見と分析、問題に適した解決策までの一連の流れをカバーできる様々なラインナップを展示します。 最新の自動運転技術及び自動車サイバーセキュリティに興味のある方は、当社ブースにぜひ足を運んでいただければと思います。 ■イベント概要 ◆名称:ジャパンモビリティショー2023(JAPAN MOBILITY SHOW) ◆会期:2023年10月26日(木)~11月5日(日) (一般公開日は、10月28日(土)~11月5日(日)となります。) ◆主催:一般社団法人 日本自動車工業会 ◆会場:東京ビッグサイト 公式HP:https://www.japan-mobility-show.com/ ■当社出展情報 ◆会期:2023年10月31日(火)~11月1日(水) 09:00~19:00 ◆出展ブース位置: […]出荷後の自動車にサイバーセキュリティが必要な理由とは?
2023年10月2日これからの自動車は組み込みソフトウェア、高度化されたECUによってインタネット、他の車両との通信、リアルタイムで交通情報の受信などの機能が可能になると予測されています。あらゆるものと繋がっている自動車は利便性が高いものの、侵入経路として利用される可能性もあるので、適切なサイバーセキュリティ対策を講じておく必要があります。したがって、自動車のサイバーセキュリティは製造/開発段階での実装が必要なのは当然だと言えます。しかし、製造/開発段階での実装では不十分です。サイバー攻撃は時間の経過により新しい手法が生まれているため、変化していく脅威に対応するためには、持続的なセキュリティアップデートが必要になります。そこで、本記事では出荷後のサイバーセキュリティ対策の要となるvSOC、PSIRTの重要性について詳しく解説します。 出荷後の自動車にサイバーセキュリティは必要? サイバーセキュリティ法規として「UN-R155」がありますが、これは車両のサイバーセキュリティに関する国連規制です。国連欧州経済委員会/UNECEの下部組織であるWP.29/World Forum for harmonization of vehicle regulations party 29によって採択されていますが、日本もこの法規制への対応を決定しており準拠するための法規制が進められています。いつからUN-R155が適用されるかというと、それでは段階的に行われることが決まっています。それは以下のとおりです。 ・2022年7月 OTA対応の新型車 ・2024年1月 OTA未対応の新型車 ・2024年7月 OTA対応の継続生産車 ・2026年5月 OTA未対応の継続生産者 OTAとはインターネット回線を経由してソフトウェアをアップデートする技術ですが、この技術に対応しているかどうか、そして新型車なのか以前から生産されていた継続生産車なのかどうかによって適用時期が異なります。WP.29で採択されたもう一つの法規「UN-R156」はソフトウェアアップデートに関する法規となります。そして国土交通省が公開している文書でも、これらへの対応のため、規制の改正を行っていくことが明文化されています。 4-3.サイバーセキュリティ及びプログラム等改変システムに係る基準(UN-R155 及び UN-R156)https://www.mlit.go.jp/common/001373651.pdf また国際標準規格「ISO/SAE 21434」では、自動車において必要となるサイバーセキュリティ管理・活動などが要求事項として規定されています。自動車出荷後の運用だけでなく廃車に至るまで、自動車のライフサイクル全体がサイバーセキュリティ観点で要求されているのです。他に車載ソフトウェアの開発プロセスのフレームワークを定めたものとしては、Automotive SPICEがありますが、これは車載ソフトウェアの品質確保目的としており、ISO/IEC 15504に準拠したプロセスモデルとなります。このように関連する規制を見ていくと自動車のサイバーセキュリティ対策は国際的及び国内の法規制から見ても、開発段階だけでなく出荷後も対策することが必要となっているのです。 UN-R155、ISO/SAE […]