「韓国次世代モビリティ技術展2023」出展レポート
2023年9月15日9月5日~6日、KOTRA(大韓貿易投資振興公社)が主催する「韓国次世代モビリティ技術展2023」が自動車製造の中核拠点である名古屋で開かれました。日本の自動車メーカーやサプライヤー企業らと強固な協力関係を築く場として設けられたこのイベントでは、バッテリーや素材、車載ソフトウェアなど韓国を代表するモビリティ企業46社がそれぞれの製品やソリューション、取り組みなどを紹介しました。 今回アウトクリプトは、昨年に続き2年連続でブース出展をさせていただき、WP29 UN-R155準拠に必要となるサイバーセキュリティ対策と当社のコンサルティング戦略を紹介しました。また、車載内部ネットワークにおける包括的なサイバーセキュリティを提供する「AutoCrypt IVS」、車載用ファジングテストソリューション「Security Fuzzer」、OSS脆弱性検出及びSBOMの作成を支援する「Security Analyzer」まで、サイバーセキュリティの高度化に役立つ様々な製品も紹介しました。 今回は特別にセミナー登壇という貴重な機会もいただきました。「自動走行時代のサイバーセキュリティについて」というテーマで、 当社のサイバーセキュリティ実装事例などを取り上げながら、来るモビリティ社会における自動車のサイバーセキュリティの重要性について解説しました。 1.本格化するEVシフト 日本と同様、韓国でも今EVシフトへの動きが活発になっています。韓国の自動車メーカーは、次々とEV開発に向けての取り組みを進めており、会場でもEV関連ソリューションを展開する企業が多くみられました。 EVシフトは、世界的に主流となっています。欧州では今年3月、「2035年EV化法案」が合意され、内燃機関車の新車販売が2035年に全面禁止されるようになり、アメリカではEVを普及させることを目的とするEV購入者に対する税額控除制度が策定されるなど、政府主導で様々な取り組みが進められています。 日本でも2022年を境にEVの普及が大幅に伸びています。日本自動車販売協会連合会が発表した燃料別販売台数(商用車)によると、2021年のEVの新車販売台数は約2万1000台で、全体(約240万台)の約0.9%にとどまったのですが、2022年の場合1~9月までだけでも2万2234台となっており、全体の約1.34%に上昇しました。2022年の同期におけるアメリカ(約5.6%)と欧州(10.6%)のEV普及率に比べると、極めて低い水準ではありますが、今後さらなる拡大が予想されています。* 日本の自動車メーカーたちもそれぞれのEV戦略を進めています。日産は、EVを中心とした電動化を今後の戦略の中核とする「Nissan Ambition 2030」を発表し、2030年度までに19車種のEVを発表する計画を立てています。トヨタは「EVファースト」の発想を明らかにし、2030年までに電動化に対して最大8兆円を投資するなど、本格的なEV市場への参入を宣言しています。 このようにEV製品開発に拍車をかけているものの、従来の部品メーカーやサプライヤー業者の見直しなどが課題として残っているのも事実です。今後自動車業界がどう対応していくか、注目です。 *出典: EV DAYS https://evdays.tepco.co.jp/entry/2021/09/28/000020 2.急がれるカーボンニュートラルへの対応 自動車産業に「EVの普及」という大きな変化が起きている背景としては、世界共通の課題となっている「カーボンニュートラル」への動きなどが挙げられます。日本も2050年までにCO2の排出をゼロにすることを目指しています。 様々な産業からの取り組みが進められている中、自動車産業では、従来のガソリン車に比べてCO2排出量が少ないEVへの転換が加速化しています。日本におけるCO2排出量のうち、運輸部門からの排出が約17.7%というかなり大きな割合を占めているため、ガソリンから電気や水素などCO2の排出を最小限に抑えられる燃料に置き換えるという選択肢は避けられないものとなっています。 それにもかかわらず、日本は他の国と少し違う戦略をとっています。完全なEV化ではなく、エンジンとモーターを併用するHV(ハイブリッド自動車)やPHV(プラグイン・ハイブリッド自動車)を普及させる形で、実際に日本国内で普及している電動車の大半がHVやPHVです。その背景には、日本の自動車産業の構造にあります。自動車産業は日本の経済を支える基幹産業であり、ガソリン車からEVに置き換えられれば、エンジンなど多くの自動車部品が不要となり、部品サプライヤーに大きな打撃を与えてしまうことになるでしょう。 […]
V2Gとは?EVを電力インフラとして活用する「V2G」について
2023年9月1日温室効果ガスの排出を減らし、全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」に日本を含む世界中の国々が参加し、実現に向けて取り組んでいます。カーボンニュートラル実現の影響は様々な産業に及ぼしており、発電においては化石燃料より再生可能エネルギー(太陽光、風力)を利用した発電、自動車産業では電気自動車(EV)の普及及び2035年からガソリン車の新車販売を禁止するなど、様々な産業で積極的に取り組んでいます。 その中でも注目を集めているのは、電力インフラとしてEVを組み込む「V2G」(vehicle-to-grid)です。EVを蓄電池として利用するV2Gは再生可能エネルギーの課題を解決できる技術として注目を集めています。この記事では、V2G概要、活用方法、課題などについて解説いたします。 V2Gとは?V2Hと何が違う? V2Gは電気自動車のバッテリーとスマートグリッド(Grid)を活用し、電力網インフラとして利用する技術のことで、電力会社の電力系統に接続して電気を相互に利用できる技術のことを意味します。 V2Gと似ている概念としてV2Hがあります。V2Hとは「Vehicle to home」の略語で、電気自動車と家庭で電力を充電・給電する技術です。V2Gと似ていますが、電力をやり取りする対象が違います。 V2Gが登場した背景は? カーボンニュートラルを実現するためには、再生可能エネルギーを使った発電は必須になりますが、重大な課題があります。それは「安定的な発電ができない」ということです。自然エネルギー(太陽光、風力)使うため、従来の発電に比べて不安定になってしまうことが解決すべき課題として残っています。その短所を補うためには、発電した電力を保存しておく大容量の「蓄電池」がどうしても必要になります。しかし、大容量の蓄電池を社会インフラとして構築するのは簡単ではなく膨大な資金が必要になるため、導入検討にも相当な時間がかかります。しかし、電気自動車の登場・普及により、社会インフラとして蓄電池を構築するのではなく、電気自動車を蓄電池として利用する動きが始まりました。 V2Gのメリットとは? 1.電力系統の安定化につながる カーボンニュートラルを実現するために、世界中で積極的に再生可能エネルギーの発電を取り入れている状況ですが、従来の発電と比べて安定ではないところが課題として指摘されてきました。電力供給が足りない場合、大規模停電が発生する可能性もありますので、需要量に合わせて電力を発電、送電する必要があるあります。しかし、再生可能エネルギーを利用した発電は天候によって発電量が急変するので、需給のバランスを保つことが難しいです。しかし、EVが電力系統に接続しやり取りできるV2Gを導入する場合、このような課題を解決することができます。具体的に説明しますと、EVを蓄電池として利用し、発電量が多い場合はEVに電力を保存しておき、発電量が少ない場合は系統に接続しEVの余った電力を供給することが可能になります。 2.電力企業とEV所有者にメリット 増える電力需要に対応するためには、より多い電力量を送電する設備が必要になります。その送電インフラ構築には多大な費用が掛かりますが、V2Gを導入することで費用を抑えることができ、柔軟に電力需要に対応することができます。また、EV所有者は電力系統に接続して余った電力を売ることで新しい収入源を作ることができます。 3.緊急時、バックアップ電力として利用 電力網に障害が発生したり、災害などの緊急事態が発生した場合、停電になる可能性も高くなります。しかし、V2Gに参加したEVがあれば、家庭や企業、重要なインフラに電力を供給することが可能になり、停電の備えとして活用することができます。 このように、V2Gは電力企業だけでなく、EV所有者にもメリットがあるといえます。では、日本のV2Gはどこまで来ているのか確認してみましょう。 日本におけるV2G取り組み 1.平成30年のEVアグリゲーションによりV2Gビジネス実証実験*¹ 東京電力ホールディングス株式会社と日立ソリューションズなど7社が参加した実証事業コンソーシアムです。現地実証を行うため、実証サイトを構築してV2G機器の動作検証や制御要件への適合性を確認する実証試験を実施しました。この実証事業では、EVが系統安定化(特にローカル系統安定化)に寄与する可能性が高いと判断し、それに関する制御システムの検証を行いました。今後、本実証試験で得られた成果と課題を踏まえ、オンラインので制御や複数サイトでの同時制御、SOC想定/計画の高度化検討などの実証事業の範囲を広げています。 2.V2G実証プロジェクトの概要について*² […]アウトクリプト、「韓国次世代モビリティ技術展2023」に出展
2023年8月24日この度、アウトクリプト株式会社は、2023年9月5日(火)から6日(水)に開催される「韓国次世代モビリティ技術展2023」に出展いたしますのでお知らせします。昨年に続き、2年連続の出展となります。 日本のみならず海外でも続々と電動化やEV化が推し進められており、サイバーセキュリティの重要度はますます高まっています。自動車メーカーやサプライヤー企業にもWP29サイバーセキュリティ法規に基づくCSMS構築の対応が求められる中、具体的にどう対応していくかが課題となっています。 今回の出展では、WP29法規の参照先であるISO/SAE21434に基づくサイバーセキュリティ実装の進め方として当社が提案するコンサルティング対策をご紹介します。また、統合型サイバーセキュリティソリューション「AutoCrypt IVS」から、車載ソフトウェア専用ファジングテストツール「AutoCrypt Security Fuzzer」や車載OSS脆弱性診断・自動分析ツール「AutoCrypt Security Analyzer」まで、自動車サイバーセキュリティ専門企業ならではの製品ラインナップを展示します。 当社は、15年以上培ってきた自動車サイバーセキュリティ技術ノウハウと国内外での実装経験を活かし、今後も、お客様のセキュリティ課題解決に向けて取り組んでまいります。 ■イベント概要 ◆名称:韓国次世代モビリティ技術展2023 ◆会期:2023年9月5日(火)~9月6日(水),10:00~17:00 ◆主催:KOTRA(韓国貿易センター名古屋) ◆会場:ポートメッセなごや コンベンションセンター ◆開催形式:会場開催(参加無料・事前登録制) 公式HP:https://kor-mobitech.com/ ■出展製品の詳細について AutoCrypt IVS:https://www.autocrypt.jp/ivs/ AutoCrypt Security Fuzzer:https://www.autocrypt.jp/security-fuzzer/ AutoCrypt Analyzer:https://www.autocrypt.jp/security-analyzer/車載セキュリティを確保するHSMとTEEとは?
2023年8月11日自動車技術が急速に発展している現在、販売されている多くの自動車にはECUという電子制御装置が搭載されています。ECUはElectronic Control Unitの略語で、エンジンやトランスミッション、ブレーキなどのコア部品制御だけではなく、エアコンやドアロック、カーステレオなどの制御にも用いられているほど、今や自動車に欠かせないものになりました。自動車の性能やドライバーの利便性を向上させるECUですが、不正アクセスの入口として悪用される可能性もあります。それに対応するため、自動車業界では様々な対策を講じてきましたが、今回の記事では、HSM(Hardware security modules)とTEE(Trusted execution environments)について説明します。 カーエレクトロニクスの発展とサイバー脅威の増加 自動車はエコ・自動化・電動化など、いわばCASEを中心に技術が発展しています。電子制御されている車両部品は車内ネットワークでお互いに繋がっているため、通信が適切な対策により保護されてないと車両はサイバー脅威にさらされて、サイバー攻撃の対象になる可能性があります。インフォテインメントシステム、Wi-Fi など様々なルートを利用して侵入できます。サイバー攻撃で自動車がハッキングされるとナンバープレート、車両位置、EVの場合は決済情報まで奪取される可能性が高いです。また、制御係のECUまで侵入して自動車を遠隔で操ることもできますので、運転している人の意志とは関係なく、事故を起こらせることも考えられます。そのため、CASEを実現するために、解決すべき問題はサイバーセキュリティの構築です。これからの自動車はあらゆるサイバー攻撃に対してサイバーセキュリティ対策を講じておくことが何よりも重要だと言えます。 幸いなことに、1950年代から自動車のサイバーセキュリティに関する議論が行われており、22年7月から国際法規として発行されました。国際基準を順守するために、自動車業界で様々なセキュリティソリューションを導入しています。その中でも、多く利用しているセキュリティ対策はHSMです。 HSM(Hardware Security Module)とは? ECUは車内ネットワーク通信で自動車制御を担うコア部品ですので、外部からの不正アクセスできないように保護する必要があります。特に車内ネットワーク通信データは暗号化されていないため、なりすましや改ざんのような悪意のある攻撃を受けやすいので、適切なセキュリティ対策が必要になります。この対策として用いられているのがHSMです。 HSMは欧州の先行研究であるEVITA(E-safety Vehicle Intrusion Protected Applications)プロジェクトによって策定されたハードウェア規格のことです。HSMは、ECUに外部からアクセスできない物理的な領域を割り当て、暗号化や復号化、鍵管理、認証などのセキュリティ作業を行います。物理的にHSMが盗まれない限り、サイバー攻撃でHSMで保管している暗号鍵を漏えいすることは非常に難しいため、安全に車内ネットワーク通信を利用することが可能になります。 また、EVITAでは各ECUに必要なセキュリティレベルを3段階(EVITA Full、EVITA Medium、EVITA Light)に分類して規定しています。分類基準はECUの機能及び通信対象によって違いますが、簡単に説明すると以下のようになります。 […]