

経済産業省の「充電インフラ整備促進に向けた指針」は公共用充電器について、遠隔管理・運用を可能にするOCPP(Open Charge Point Protocol)を推進し、2025年度から補助要件に反映する方針を示しています。ただし、OCPPに対応すれば充電インフラ全体が自動的に安全になるわけではありません。充電器がCSMS(Charging Station Management System)につながり、認証、決済、遠隔制御、ソフトウェア更新まで行うようになるほど、攻撃対象となる範囲も広がります。日本のEV充電は今、相互接続性を確保する段階から、接続された設備を継続的に守る段階へ移りつつあります。
本稿のCSMSは、車両側のサイバーセキュリティ管理システム(UN R155)ではなく、Charging Station Management System(以下CSMS)を指します。
OCPPは充電器とCSMSの間で、稼働状況、認証、課金、設定変更、ファームウェア更新などをやり取りするプロトコルです。特定メーカーの独自仕様に依存せず、複数の充電器を共通のバックエンドで管理しやすくなります。OCPP 1.6は現在も広く利用されていますが、国際的にはセキュリティ、デバイス管理、スマート充電、ISO 15118連携を強化したOCPP 2.xへの移行が進んでいます。OCPP 2.0.1は2024年にIEC 63584として国際規格化され、2025年に公開されたOCPP 2.1では、ISO 15118-20や双方向充電への対応が拡張されました。
ここで注意したいのは、日本の方針がOCPPをすべての充電器に一律で義務付ける法律ではなく、主に補助制度を通じて導入を促すものである点です。また、OCPPのバージョン名だけでは実際の安全性を判断できません。同じ規格に対応していても、TLS、証明書、アクセス権限、ログ、更新機能をどこまで実装し、運用しているかによってリスクは大きく異なります。
OCPPは主に充電器とCSMS、ISO 15118はEVと充電器の間の通信を定めます。ISO 15118の代表的なユースケースがケーブルを接続するだけで車両の契約認証と充電開始を自動化し、バックエンドでの課金処理につなげるPlug & Charge(PnC)です。ISO 15118ベースのPnCでは、証明書とPKI(公開鍵基盤)によって車両、充電器、充電サービス間の信頼関係を確立します。そのため、証明書の発行・配布・更新・失効を含むライフサイクル管理が必要になります。
公表されている充電インフラ補助制度の要件では、OCPPと異なり、ISO 15118への対応は求められていません。一方、2026年8月にはHubjectとプラゴが、ISO 15118に基づくPnCの日本市場への導入・普及に向けた提携を発表しました。技術オンボーディング、証明書インフラの提供、ハードウェアのテスト・認証支援などを通じ、実装環境を整備する取り組みです。ただし、これは日本市場全体での本格導入を意味するものではなく、導入に向けた具体的な事業連携が始まった段階と捉えるのが適切です。
これとは別に、CHAdeMO 2.1にはHondaとプラゴが共同開発し、2025年から国内で運用されているPnC仕様が追加されました。ISO 15118の証明書・PKIを中心とする方式とは異なり、基本構成ではCHAdeMO-CAN通信とテレマティクス認証を組み合わせます。テレマティクス認証を用いる構成では、認証の判断が車両側のテレマティクス基盤で行われます。証明書のライフサイクル管理を前提とするISO 15118ベースの方式とは、管理すべき対象も、認証に関与する事業者も異なります。
したがって、日本では当面、従来のCHAdeMO方式とISO 15118ベースの方式を含む、複数の充電通信規格および認証方式が併存すると考えられます。CPOや自動車メーカーには、それぞれの方式に応じた認証主体、証明書管理、バックエンド連携、障害・インシデント対応の責任範囲を整理することが求められます。
EV充電のセキュリティは、「電力側と充電器」「充電器とEV」という二つの区間で説明されることがあります。しかし、実際のサービスでは、少なくとも次の四つの連携面を考える必要があります。
| 連携面 | 主な仕組み | 守るべき対象 |
|---|---|---|
| EV―充電器 | ISO 15118、CHAdeMO | 車両・充電器の認証、通信の機密性・完全性、PnC認証情報(ISO 15118では証明書、CHAdeMOではテレマティクス認証情報) |
| 充電器―CSMS | OCPP | TLS、機器認証、設定・遠隔命令、ファームウェア、ログ |
| CPO―eMSP・ローミング・決済・PKI | API、OCPIなど | 利用者・契約情報、決済、権限、証明書ライフサイクル |
| 電力・施設EMS―充電設備 | エネルギー管理・制御通信 | 負荷制御指令、系統影響、ネットワーク分離、可用性 |
CPO(Charge Point Operator)が最も直接的に管理するのは充電器―CSMS間と、CSMSから外部サービスへつながる領域です。EV側は自動車メーカー、電力側は電力・施設管理者、充電器自体はメーカーや保守事業者とも責任を共有します。調達仕様、接続条件、保守契約、インシデント連絡手順によって責任分界を明文化することが重要です。
規格への対応はある時点での適合を示すものであり、安全な状態そのものを保証するわけではありません。複数の充電通信規格と認証方式が併存する状況は当面続くと考えられ、方式ごとに認証主体と証明書管理の責任範囲を整理する場面は今後増えていくと想定されます。まず着手しやすいのは、自社が運用する充電器のOCPP対応バージョンとSecurity Profileの設定状況、そして証明書の管理主体を確認することです。ただし、設備の世代や調達時期が異なる環境では、これらを一律に整理することが難しいケースも想定されます。
規格に対応した充電器を導入した後も、証明書の有効期限、未知の充電器ID、想定外の設定変更、ファームウェア更新、Tamper Eventといった事象は日々発生します。これらを個別のツールで追うのではなく、充電設備を対象としたセキュリティ運用の枠組みとして一体で扱う。車両側で定着しつつあるVSOC(Vehicle Security Operations Center)の考え方を充電設備に適用したもので、アウトクリプトではこれをEVSE SOCと呼んでいます。
規格に対応した充電器を導入した後も、証明書の有効期限、未知の充電器ID、想定外の設定変更、ファームウェア更新、Tamper Eventといった事象は日々発生します。これらを個別のツールで追うのではなく、充電設備を対象としたセキュリティ運用の枠組みとして一体で扱うのがEVSE SOCの考え方です。出発点は、PKIと証明書管理によって車両、充電器、バックエンドの間に信頼関係を築くことです。その上で、充電器内部のイベントや異常な遠隔命令をEVSE IDSで検知し、SBOMと脆弱性情報の照合によって影響を受ける機器を特定します。集約したログを相関分析して初動対応につなげ、誰がいつ何を変更したかを証跡として残せば、復旧と説明責任の双方に備えられます。
アウトクリプトは、この考え方に基づくEV充電インフラ向けのセキュリティプラットフォームを提供しています。証明書・鍵の管理による信頼の確立から、EVSE内部イベントの監視、SBOMと脆弱性情報に基づく影響範囲の特定、変更履歴を残す証跡管理まで、これらの要素を一つの枠組みとして扱います。ISO 15118とCHAdeMOのどちらの方式であっても、充電器とCSMSをつなぐ運用面の課題は共通です。OCPP対応状況の確認から運用監視の設計まで、EV充電セキュリティについてご検討の方は、お気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年9月時点で公表されている情報に基づいて執筆しています。最新の情報は各機関の公開ページをご確認ください。
経済産業省「充電インフラ整備促進に向けた指針」、CHAdeMO協議会